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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)5525号 判決

第一、第二事件原告、第三事件被告

(以下「原告」という。)

株式会社大正相互銀行

右代表者代表取締役

高木正巳

右訴訟代理人弁護士

北村巌

北村春江

吉田泠子

第一、第二事件被告、第三事件原告

(以下「被告」という。)

永久商事株式会社

右代表者代表取締役

永尾明男

右訴訟代理人弁護士

山西健司

主文

一  (第一事件、第二事件につき)

原告の請求をいずれも棄却する。

二  (第三事件につき)

被告の請求を棄却する。

三  訴訟費用のうち、第一事件、第二事件関係で生じた分は原告の負担とし、第三事件関係で生じた分は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 (主位的請求)

(一) 被告は、原告に対し、別紙物件目録五、六記載の物件につき、大阪法務局吹田出張所昭和五五年七月五日受付第二七三一五号をもつてなされた、根抵当権者を大和信用組合、債務者を中山徳重とする別紙登記目録一記載の根抵当権設定登記(但し、別紙登記目録五ないし七の各付記登記済)の抹消登記手続をせよ。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2 (予備的請求)

(一) 別紙物件目録五、六記載の物件につき、大和信用組合と被告間で昭和五八年九月九日付をもつてなされた右1(一)記載の根抵当権譲渡契約について中山徳重のなした承諾を取り消す。

(二) 右1(一)(二)と同じ。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 大阪地方裁判所が同庁昭和五九年(ケ)第一七六号不動産競売事件について作成した昭和六〇年六月四日付配当表のうち、被告の配当額金一億一九四八万三四九四円、原告の配当額金〇円とあるのを、被告の配当額金三三四八万三四九四円、原告の配当額金八六〇〇万円と変更する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(第三事件)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、金二二四〇万一六六三円を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件)

一  請求原因

1 主位的請求

(一) 原告は、中山徳重(以下「中山」という。)との間に昭和五五年八月九日、別紙物件目録一ないし三記載の物件につき、債務者を中山とする別紙登記目録二記載の内容の根抵当権設定契約を、昭和五六年二月二日、別紙物件目録一ないし六記載の物件(以下「本件物件等」と総称し、同目録五、六記載の物件を「本件物件」という。)につき、債務者を中徳機械器具株式会社(以下「中徳機械」という。)とする別紙登記目録四記載の内容の根抵当権設定契約をそれぞれ締結し、右各契約を原因として右各登記目録記載の根抵当権設定登記を経由した。なお、別紙登記目録二記載の登記については、債務者の変更により同目録三記載の変更登記が経由された。

(二)(1) 本件物件等につき、昭和五五年七月五日、根抵当権者を大和信用組合(以下「組合」という。)、債務者を中山とする別紙登記目録一記載の根抵当権設定登記(以下「本件根抵当権設定登記」という。)が経由されている。

(2) その後、本件物件等の右別紙登記目録一記載の根抵当権(以下、「本件根抵当権」という。)について、昭和五八年九月一〇日、同月九日付をもつて組合から被告への譲渡を原因とする同登記目録五記載の根抵当権移転付記登記、同登記目録六記載の債務者の変更付記登記及び同登記目録七記載の被担保債権の範囲の変更付記登記が経由されている。

(三) しかしながら、被告は、組合から本件根抵当権を譲り受けた事実はなく、仮に、被告がこれを譲り受けたとしても、根抵当権の譲渡は、元本の確定前にその旨の登記をしなければ、民法三九八条の一二により無効であり、債務者及び被担保債権の範囲の変更も元本の確定前にその旨の登記をしなければ、同法三九八条の四により不存在とみなされる。しかるに、右(二)の本件根抵当権の譲渡並びに債務者及び被担保債権の範囲の各変更は、同法三九八条の二〇第一項一号により被担保債権の元本が生じないことによりこれが確定した後になされたものであるから、いずれも無効ないし不存在である。しかして、元本確定の理由は次のとおりである。

(1) 本件根抵当権の被担保債権の元本は、昭和五七年初めころ確定した。

すなわち、組合の営業区域は、大阪市、堺市、東大阪市、八尾市、松原市、四篠畷市、大東市であり、組合員たる資格を有する者は、組合の地区内において事業を行なうか、または住所を有するものに限られている(中小企業協同組合法八条四項)。ところが、中山は、昭和五六年、大阪市平野区で経営していた飲食業をやめ、昭和五七年初め当時は吹田市千里丘西一五―一に居住しており、組合の営業区域内に住所も営業所も有しない。しかも中山は、大阪市内に本店のあるムツワ資材株式会社の代表者も兼ねているとはいえ代表取締役は、同項にいう「地区内において勤労に従事する者で定款で定める者」に該当しないから、遅くとも昭和五六年末には組合員資格を喪失し組合を法定脱退したものである。したがつて、昭和五七年以降の組合の中山に対する貸付は員外貸付として無効であり(同法一九条、一一二条)、本件根抵当権の被担保債権である信用組合取引による新たな元本が生じる余地はなくなつたのであるから、同年初めころ本件根抵当権の被担保債権の元本は確定した。

(2) 仮にそうでないとしても、本件根抵当権の被担保債権の元本は、昭和五八年八月下旬ころ確定した。

すなわち、組合は、中山に対し、昭和五四年八月二四日、五五〇〇万円を、同年一二月から毎月六八万円宛分割弁済の約定で貸し渡したが、中山は、昭和五五年九月分までの分割金を支払つたのみで、その後の分割金の弁済を怠り、利息についても、同年七月頃から延滞ぎみとなつた。さらに組合は、中山に対し、同年六月三〇日、五〇〇〇万円を六か月据置、昭和五六年一月から毎月六五万円宛分割弁済の約定で貸し渡したが、中山は、分割金を一度も支払わず、利息についても前同様延滞ぎみであつたが、特に昭和五六年七月以降はさらに組合に対する元金支払はもちろん利息支払も大幅な延滞を繰り返した。そして、右五〇〇〇万円の貸付後、組合の中山に対する新規貸付はなく、組合は、昭和五八年三月九日、中山に対する債権処理を専ら債権回収を目的とする本店管理部に移管し、中山に弁済を督促し、中山も所有不動産売却による弁済を確約するなど交渉を重ね、鋭意その回収にのみ努めてきた。

また、中山が代表取締役として経営する中徳機械は取引先の中尾産業株式会社(以下「中尾産業」という。)が昭和五八年六月倒産し、それに伴い同じく取引先のスターフロック商事株式会社(以下「スターフロック」という。)も連鎖倒産したことにより、昭和五八年八月当時、これら取引先に対する合計約八億円の債権が回収不能となつており、既に昭和五四年一〇月頃から被告から高利の金融を受け、特に昭和五八年七月には無担保融資に近い五〇〇〇万円という巨額の融資を受けているのであつて、当時中徳機械及び中山は、いずれも支払停止に近い状態にあつたのであり、金融機関たる組合はこうした事態を銀行協会の拒絶処分通知書又は興信所の特報等で十分推測していたとみられる。しかも、中山は、昭和五八年八月末瀕死の状態を逃れるべく再び組合に融資を申し出たが拒絶されている。

したがつて、遅くとも昭和五八年八月下旬の時点で、債権者たる組合のもう新規融資はしない、債務者たる中山のもう新規融資申出はしないという意思が明示されていたのであり、その時点で担保すべき元本が生じないことになり本件根抵当権の被担保債権の元本は確定した。

(3) 仮にそうでないとしても、本件根抵当権の被担保債権の元本は、昭和五八年九月九日の二、三日前ないし遅くとも同日確定した。

① すなわち、昭和五八年九月六日ころ、組合、中山、被告、中徳機械の四者間に口頭で次の(ア)(イ)を内容とする合意が成立した。

(ア) 昭和五八年九月九日付をもつて組合と中山との間の一切の取引契約を合意解除し、かつ、中山の組合に対する預金債権との相殺処理後の残債務八〇〇〇万円全額を被告から融資を受けて返済する。

(イ) 右融資に伴い組合は、本件根抵当権を被告に全部譲渡し、別紙登記目録六、七記載のとおり、本件根抵当権の債務者及び被担保債権の範囲を変更する。

② その後、昭和五八年九月九日、右四者間で右合意に基づく契約書が作成された。

したがつて、右合意成立の時か遅くとも右契約書作成時である前同日、中山と組合の間において回り手形債権を含めて一切の債権について本件根抵当権の被担保債権としない旨の合意が成立したとみるべきで、その時点で本件根抵当権の被担保債権の元本は確定した。

(四) 別紙物件目録一ないし四記載の物件については大阪地方裁判所昭和五九年(ケ)第一七六号事件の任意競売手続の売却許可決定・代金納付により、右物件の各根抵当権設定登記はいずれも抹消された。

(五) よつて、原告は、被告に対し、主位的に、前記(一)の根抵当権に基づき、本件物件につきなされた請求の趣旨記載の各登記の抹消登記手続を求める。

2 予備的請求

(一) 中山は、原告に対し、昭和五八年三月から同年五月ころ、別表記載の原告の中徳機械に対する手形債権元金七四九一万九〇〇〇円につき裏書保証をし、右同額の債務を負担している。

(二) 中山は、同年九月六日ころないし同月九日、本件根抵当権について、前記譲渡並びに債務者の変更及び被担保債権の範囲の変更に関して承諾をした(以下「本件承諾」という。)。

(三) しかし、本件承諾は、被告が中山の組合に対する債務八〇〇〇万円を肩代わりするとはいつても、その見返りに極度額一億三〇〇〇万円の本件根抵当権の譲渡を受け、しかも、前記のとおり、本件承諾当時支払停止に近い状態にある中徳機械に対する被告の旧債権をもその被担保債権とするものであつて、一般債権者を害する行為であることは明らかである。

(四) 中山は、本件承諾当時、右(一)(三)の事実をいずれも知つていた。

(五) よつて、原告は、被告に対し、予備的に、詐害行為取消権に基づき、本件承諾の取消並びに本件物件につきなされた請求の趣旨記載の各登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1 請求原因1(一)の事実のうち、本件物件等につき、原告主張の各登記が経由されていることは認めるが、その余の事実は否認する。同1(二)及び(四)の各事実は認める。同1(三)はいずれも争う。

2 同2の事実のうち、(一)は知らない。(二)は認める。(三)、(四)は否認する。

三  被告の主張

1 本件根抵当権の成立について

組合は、昭和五五年六月三〇日、中山との間で本件物件等につき、極度額金一億三〇〇〇万円、債権の範囲、信用組合取引、手形債権、小切手債権、債務者中山徳重とする根抵当権設定契約を締結し、昭和五七年三月九日右債権の範囲に昭和五四年八月二四日金銭消費貸借契約を加え、組合は、中山に対し、昭和五八年九月当時、右根抵当権の被担保債権として約八〇〇〇万円の貸付残高を有していた。

2 本件根抵当権譲渡の経緯について

(一) 昭和五八年九月初めころ、原告の当時の玉造支店長猪俣政弘(以下「猪俣」という。)は、中山を同道のうえ被告会社を訪れ、中徳機械の同月の決済資金として二〇〇〇万円が不足する、何とか被告から右決済資金を融資してほしい旨依頼した。その際の猪俣の話では、右融資の担保としては、組合が有している本件根抵当権の譲渡を受ければよいということであつた。つまり、組合の中山に対する貸付残金は八〇〇〇万円であるが、本件根抵当権の極度額が一億三〇〇〇万円であるから、被告がこの八〇〇〇万円を肩代わりして中徳機械に融資し、今回更に二〇〇〇万円を別に融資しても本件物件等の担保価値は十分あり、被告には迷惑はかけないということであつた。

(二) その結果、被告は、猪俣の申出を了承し、同月九日、右八〇〇〇万円及び二〇〇〇万円を中徳機械に融資し、中徳機械は、中山の組合に対する貸付残債務八〇〇〇万円を代位して弁済した。そこで、被告は、中山の承諾の下に組合から本件根抵当権の譲渡を受けると共に債務者を中徳機械に、被担保債権の範囲を金銭消費貸借取引、手形貸付、手形債権、小切手債権にそれぞれ変更したものである。

(三) 被告としては、このように本件根抵当権譲渡の話がしかも原告の一支店の最高責任者からあつたからこそ、融資を承諾したのである。また、右の融資話の際、猪俣も九月の資金繰りがつけば後は原告の方で中徳機械の資金の面倒をみると言つていたのであり、原告としても当時は中徳機械が倒産するというようなことは全く考えていなかつた。また、右融資がごく短期間のうちに決定されている点についても、中山あるいは猪俣が融資実行を急いでいたからにすぎない。このことは、猪俣は、昭和五八年九月二日ないし三日に組合のあびこ支店長中西直幸に電話して本件抵当権譲渡に関する書類が完備しているか確認し、更に同月六日ないし七日にも同趣旨の電話をして督足していることからも明らかである。したがつて、本件根抵当権譲渡は、根抵当権の極度額の枠の濫用ともいうべきいわゆる「駆け込み譲渡」とも本質的に異なるのであり、原告ら後順位抵当権者からの何ら非難を受ける謂れはない。

3 根抵当権の被担保債権の元本確定について(反論)

(一) 原告は、本件根抵当権の被担保債権の元本が民法三九八条の二〇第一項一号にいう「取引終了その他の事由によつて、担保すべき元本が生ぜざることとなりたるとき」に該当し、確定した旨主張する。

しかして、ある根抵当権者が自己の判断で債務者の信用に不安を抱き、債務者に対する新規貸付を一時中断したとしても、他の債権者が別の観点で当該物件に余剰価値があるとみて、既に設定された根抵当権の極度額の枠を利用して、右根抵当権の譲渡を受け、新たに債務者に融資を実行することは、その債権者の全くの自由であり、これこそ正に「担保権の流動化」を狙つた民法の立法趣旨にもかなうのである。

同条にいう「取引終了その他の事由」とは、債務者が既に手形交換所の不渡処分を受けて倒産し、しかも営業活動も完全に停止しているといつた場合等元本が将来発生しないことが少なくともその時点で明確になつた状態、客観的に債権発生の可能性が全くなくなつたときをいうのであり、一債権者が債務者の信用に不安があるとして融資を断つたとしても、そのことによつて直ちに取引が終了したり、元本が確定することはあり得ない。

(二) 中山の組合員資格喪失による確定の主張については、中山は、大阪市に本店のあるムツワ資材株式会社の代表者も兼ねており、また、中徳機械は大阪市内に支店も有している。したがつて、右のいずれもが中山の勤務先であり、中山は組合の組合員資格を有する。仮に、組合員資格が一時的になくなつたとしても、たとえば、大阪市に居住していた債務者が吹田市に移転すれば、そのとたん元本が確定するのではいかにも常識に合致せず、根抵当権者と債務者の間で取引終了の合意でもない限り、根抵当権は確定しないと考えるべきである。

(三) 中山及び中徳機械の支払停止による確定の主張については、上叙のとおり、原告も昭和五八年八月当時、中徳機械が倒産するとは考えていなかつたし、組合としても中徳機械の経営状態が好転すれば、貸付の可能性もあると考えていた。したがつて、当時、一時的に元本債権が生じない状態が続いていたにすぎず、組合と中山の取引は継続していたとみるべきである。

(四) 合意解除による確定の主張については、原告主張の合意は、組合の中山に対する八〇〇〇万円の残債権を被告の肩代わりによつて消滅させるというだけのことにすぎず、このことから直ちに取引終了ということにはならない。ある債権者が融資を渋つているとき、債務者が別の融資先を見つけてきて、この者に元の債権を肩代りしてもらう見返りに元の債権に付いていた根抵当権の新規融資先への譲渡を図るのは、金融取引界でよくある例で、原告のいうように債務を肩代わりして根抵当権の譲渡を受ければそれだけで取引が終了してしまうというのであれば、確定前の根抵当権譲渡はほとんどあり得ないことになる。

4 詐害行為取消の主張について

本件根抵当権の極度額は一億三〇〇〇万円であり、そのことは登記上明らかであるから、後順位担保権者及び一般債権者はその範囲で右根抵当権者に優先権を主張されることは当然に予測すべきことであり、本件承諾はそもそも詐害行為にあたらない。

しかも、被告は現実に中徳機械に融資をしているのであり、中山には詐害の意思はない。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1 被告の主張1、2の各事実は否認する。同3、4は争う。

2 被告らの不当性について

被告主張の二〇〇〇万円の融資のうち、一五〇〇万円は実質的には融資とはいえない。すなわち、

(一) 被告は、中徳機械振出の手形を何回もジャンプして資金援助していた。

(二) 原告は、その後中徳機械に対し、昭和五八年九月六日組合より融資が受けられるまでの三日間のつなぎ融資ということで金二〇〇〇万円を融資したが、昭和五八年九月七、八日頃猪俣支店長が中山より「組合が被告へ」「被告が中徳機械へ」それぞれ融資することになり、それにともない本件根抵当権が組合より被告に譲渡されることになつたとの報告を受け、同支店長は九月九日その取引場所である被告が専属で利用している田中司法書士事務所を訪ねた。

同事務所では、組合の担当者と中山、永尾の三者が机を囲んで関係書類に調印した(猪俣支店長は右取引に関係がないため一人離れて座りその内容を確知していない)。

(三) その際、中山は、永尾から二〇〇〇万円の組合の保証小切手を受け取り、猪俣支店長は、その場で中山から右小切手の交付を受けた。ところが猪俣支店長がこれを次営業日の九月一二日に中徳機械の当座預金に入金し取立てたうえ、右貸金に充当しようとしたところ、被告が中徳機械振出、支払期日右同日、額面一五〇〇万円の約束手形を九月九日すでに取立に出していたため右手形が九月一二日原告の玉造支店に交換呈示された。そこで、猪俣支店長はいつたん不渡手続をしようとしたが、中山を介し被告に依頼返却を求め入金待の手続をとつたが、これを実行されず、結局、原告は、やむなく右手形を決済したため、いつたん返済金として二〇〇〇万円の小切手を受領したものの、右つなぎ資金の返済に充当できず、反面うち一五〇〇万円については実質的に被告が中徳機械に融資したことが帳消しになつた。これらの一連の取引は、中山、被告の両名ないしそのいずれに原告が罠にはめられ、二〇〇〇万円の損害を受けたことになる。

(第二事件)

一  請求原因

1 第一事件請求原因1(一)の事実と同じ。

2 第一事件請求原因1(二)(1)(2)の事実と同じ。

3 大阪地方裁判所は、被告の申立により当時中山の所有であつた別紙物件目録一ないし四記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)につき昭和五九年(ケ)第一七六号事件として任意競売手続を開始し、その後本件不動産の競売の結果、昭和六〇年六月四日付でその売却代金につき別紙配当表を作成した。

4 しかしながら、被告は、前記2の各登記の登記原因である各根抵当権及びその被担保債権を有しない。すなわち、

(一) 右各根抵当権設定登記、移転変更登記の原因である各根抵当権設定契約、根抵当権移転並びに変更契約は成立していない。

(二) 被告の中徳機械に対する被担保債権は存在しない。

(三) 仮に、右(一)、(二)の契約の成立並びに債権の存在が認められるとしても、前述したように、別紙登記目録五記載の根抵当権移転付記登記及び登記目録六・七記載の根抵当権変更付記登記の登記原因はいずれも無効であり、仮にそうでないとしても、右根抵当権移転付記登記及び根抵当権変更付記登記の各登記原因についての中山の本件承諾は、第一事件請求原因2記載のとおり詐害行為として取り消されるべきものである。

5 原告は、同登記目録二、四記載の根抵当権の被担保債権として中徳機械に対し、別表記載の割引手形債権元利合計金九三六六万一〇九四円を有する。

6 以上の事実によれば、原告は、右5の根抵当権に基づき本件不動産の売却代金から請求原因1の原告の根抵当権の極度額合計金八六〇〇万円につき優先弁済を受けられるはずである。

したがつて、別紙登記目録一記載の根抵当権設定登記、同登記目録五記載の根抵当権移転付記登記及び同登記目録六・七記載の根抵当権変更付記登記が有効であるとして原告の配当額を0とした前記配当表には過誤がある。

7 そこで、原告は、右事件の配当期日である昭和六〇年六月四日、前記配当表の被告の配当額のうち八六〇〇万円につき異議を申立てたが、債権者たる被告が右異議を承認しないため、右異議は完結しなかつた。

8 よつて、原告は、前記配当表を請求の趣旨のとおり変更することを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1 請求原因1ないし3の各事実は認める。

2 同4の事実は争う。

3 同5の事実は知らない。

4 同6の事実は争う。

5 同7の事実は認める。

三  被告の主張

1 第一事件の被告の主張1、2の各事実と同じ。

2 本件根抵当権の被担保債権の存在について

被告は、本件根抵当権の被担保債権として、中徳機械に対して、左記のとおりの債権を有しているから、別紙配当表は適正である。

(一) 元金一億六〇〇〇万円

内訳

(1) 金五〇〇〇万円

昭和五七年七月三一日金銭消費貸借契約に基づく貸付金

(2) 金一億一〇〇〇万円

昭和五八年九月九日金銭消費貸借契約に基づく貸付金

(二) 遅延損害金

(1) 前記(一)(1)の金五〇〇〇万円に対する昭和五八年一〇月一四日から支払ずみまで年三〇パーセントの割合による金員

(2) 前記(一)(2)の金一億一〇〇〇万円に対する昭和五八年一〇月一四日から支払ずみまで年三〇パーセントの割合による金員

3 仮に本件根抵当権譲渡がなされなかつたとすれば、組合に対する配当金は、元金八〇〇〇万円に、昭和五八年九月九日から配当期日の前日である昭和六〇年六月三日までの年二五・五パーセントの割合による損害金三五四三万四五一九円を加算した一億一五四三万四五一九円となる。

したがつて、確定債権八〇〇〇万円を代位弁済した場合には被告が第一順位で配当金一億一五四三万四五一九円を受けられることは当然である。原告の論法によれば先順位の根抵当権の譲渡があつたというだけで、第一順位の根抵当権の配当が0となり、第二順位の原告が八六〇〇万円全額の配当を受けられることになり不当である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1 被告の主張1、2の各事実は否認する。同3は争う。

2 被告が確定根抵当権の代位弁済をしたとき、その主張の配当を受けられることは当然である。ただこの場合の利息金は求償権の範囲内である年五パーセントである。

被告が右の処理をせず確定前の根抵当権譲渡の手続をとつたため、被告が結果として損をし原告が反射的に得をする結果となつても、これは被告が八〇〇〇万円の実質的な代払によりこの金額を五〇〇〇万円も越える根抵当枠を獲得しようとして法律の拡大解釈をして制度を流用したことに由来するものである。

(第三事件)

一  請求原因

1 原告の不法行為

(一) 原告は、第一事件、第二事件の訴えを提起した。

(二) しかしながら、第一事件、第二事件とも極めて根拠薄弱な不当訴訟である。しかも、第二事件は、第一事件の審理が相当進行し、既に原告の主張の理由のないことが明白になつた段階で提起されたものである。とりわけ、本件全体の基礎にある原告の主張そのものが被告に融資を依頼し、一方で被告に根抵当権譲渡を受けさせたのが原告の支店長であり、他方でその原告が根抵当権譲渡の無効を主張するというようにそれだけでも矛盾したものであることは、第二事件の訴訟提起時には既に第一事件の関係証拠上明白であつた。

(三) さらに、被告は、原告に対し、配当期日の直前、配当異議の申立により被告に対する配当が留保されれば、これに基づく損害について、賠償を請求することになる旨文書にて予め警告した。それにもかかわらず、原告は、あえてこれを無視して第二事件を提起した。したがつて、原告は、第一事件、第二事件で敗訴すれば、被告がその間配当を受けられなかつたことなどによる損害については、原告において賠償することを覚悟の上で第二事件を提起したものである。

2 原告の責任

(一) 一般に、不当訴訟が不法行為を構成するには、相手方に故意、過失を必要とするが、被告が原告に対し損害賠償を求める所以は、第二事件の訴訟提起により結果として生じた八六〇〇万円の配当金の支払留保という点にある。

一旦被告が配当を受けた後、もし仮にこれが理由がないとなれば不当利得として返還請求を求められ、この場合は当然これに対する支払済までの損害金が付加して請求されるはずのものである。そうであるならば逆に原告が配当異議訴訟を提起した結果、判決でその理由がないことが認められた場合には、訴訟を提起した者が、八六〇〇万円の支払を留保されたことによつて相手方である被告に与えた損害を自ら負担するのが、公平である。しかるところ、原告が、配当異議訴訟(第二事件)という極めて強力な手段に訴えたことにより、被告への配当が留保された以上、原告としては、右配当留保によつて被告の被る損害は、当然予測できたはずである。

したがつて、民訴法一九八条二項を準用して、原告は無過失責任を負うべきである。

(二) 仮にそうでないとしても、配当異議訴訟による配当金の支払の留保は、判決確定に至るまで担保の提供もなくして、いわば仮処分によつて被告への支払を停止するのと同じ効力を有するものというべきである。違法な保全処分による損害については、本案訴訟において原告の敗訴判決があれば、保全処分を申請した側に原則として過失が推定される。

したがつて、第二事件における原告の請求が理由がなく敗訴判決がなされるということは、すなわち、原告の過失が推定されたことになるというべきであるかから、原告は損害賠償の責任を免れない。

3 被告の損害

被告は、原告の右不法行為により、次の損害を被つた。

(一) 利息相当損害金 一三八三万一六六三円

被告は、金融業を営むものであり、被告が配当期日に配当金八六〇〇万円の配当金を受領していれば、少なくとも、これに対する利息制限法の制限の範囲内である年一五パーセントの割合による利息相当の利益を得られたのであり、その額は別紙支払額一覧表のとおりである。

(二) 弁護士費用 八五七万円

被告は、本訴の提起・追行を本件訴訟代理人に委任し、同代理人に対し、右金額の支払を約した。

4 よつて、被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償金として、金二二四〇万一六六三円の支払を求める。

二  請求原因に対する原告の認否

1 請求原因1(一)の事実は認める。

2 請求原因1(二)(三)、2、3の各事実は否認ないし争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一第一事件関係

一主位的請求について

1  請求原因1(一)のうち、本件物件等につき、原告主張の各登記が経由されたこと、(二)及び(四)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  〈証拠〉によれば、原告(玉造支店)は、中山に対し、昭和五五年八月九日、中徳機械の事業資金として三六〇〇万円を貸し渡し、別紙物件目録一ないし三記載の物件につき所有者の中山から第二順位で極度額三六〇〇万円の根抵当権の設定を受け、同月一五日、その旨登記(別紙登記目録二記載)を経由した(なお、右登記は昭和五七年二月一七日別紙登記目録三記載のように中山から中徳機械への債務者の変更登記がなされた。)こと、また、昭和五六年一月二〇日、原告は、中山を保証人として、中徳機械と相互銀行取引契約を締結し、同年二月二日、中徳機械に対し、その事業資金として五〇〇〇万円を貸し渡し、本件物件等につき所有者の中山から第二順位で極度額五〇〇〇万円の根抵当権の設定を受け、同月一八日、その旨登記(別紙登記目録四記載)を経由したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  しかるところ、被告は、被告の本件根抵当権の譲り受け自体並びにその後の債務者及び被担保債権の範囲の各変更の事実を争うので、まずこの点について判断するに、

〈証拠〉を総合すれば、次の各事実を認めることができる。

(一) 組合と中山の従来の取引状況

組合(大東支店)は、昭和五四年四月五日付で中山との間に信用組合取引約定書を取り交わし、同日から中山に対する手形貸付等の取引を開始し、その後中山に対し、中山経営の中徳機械(機械工具販売)の土木機械製造販売権買取資金として、同年八月二四日、同年一二月から月額六八万円宛返済の約定で五五〇〇万円を貸し渡し、さらに、中徳機械の土木機械製造資金として、昭和五五年六月三〇日、昭和五六年一月から月額六五万円宛返済の約定で五〇〇〇万円を貸し渡し、右各貸付債権を担保するため、昭和五五年六月三〇日、本件物件等に対し所有者の中山から第一順位で極度額一億三〇〇〇万円の本件根抵当権の設定を受け、翌七月五日、本件根抵当権設定登記を経由した。

しかし、中山は、組合に対し、他の少額の融資については近い時期に返済を完了したが、右五五〇〇万円の借受金については、元本を昭和五五年九月まで支払つたのみでその後は支払が滞り、右五〇〇〇万円の借受金については、元本の返済を一切しなかつた。また、利息については、いずれも毎月一カ月先払の約定であつたが、昭和五五年七月ころから延滞ぎみとなり、昭和五六年七月ころからは数カ月遅れでまとめて支払うというようになり、延滞が続いていた。

組合は、このように中山に対する貸付債権の回収が進まず、しかも大口の債権でもあり、また、大東支店での中山の担当であつた伊奈健司(以下「伊奈」という。)が昭和五八年一月に組合の本店管理部に異動したこと及び中徳機械の本店が大阪市南区に移転したので組合の本店の方が対処しやすいということもあつて、同年三月三一日、右貸金二口につきこれを本店管理部に移管しその回収に努めたが、回収はできず、結局、昭和五八年九月一日現在で、右五五〇〇万円の貸付金については三六〇四万円、右五〇〇〇万円貸付金については五〇〇〇万円合計八六〇四万円の差引残高が滞つていた。以後、組合は、中徳機械に新規貸付をしなかつたが、上叙のとおり本件物件等について第一順位で極度額一億三〇〇〇万円の根抵当権を有していたことから、右各貸付金の回収に関してはそれ程心配しておらず、他方、中山としても本件物件等を処分して処分代金をもつて右返済に充てる意図を有していた。

(二) 被告と中徳機械及び中山との従来の取引関係

被告は、永尾明男(以下「永尾」という。)が昭和五〇年ころから個人で営んでいた金融業を昭和五七年ころ会社組織(代表取締役永尾)にしたものである。

永尾は、中徳機械に昭和五一年ころから事業資金を貸付けるようになり、その後、被告が昭和五七年七月三一日、五〇〇〇万円を貸し渡し、本件物件等に組合及び原告に遅れて極度額五〇〇〇万円の根抵当権の設定を中山から受け、翌八月二日、その旨登記を経由した。

その他にも、昭和五四、五五年ころ、永尾は、中徳機械に対し、中徳機械所有の洲本市の宅地を担保に事業資金を融資したり、昭和五八年一月ころ、被告が中尾産業の手形を中山の保証で割引くにつき、中山所有の名張市の土地建物を担保に取つたりしていた。しかして、中山は、原告の玉造支店長猪俣と昭和四五、六年以来の知り合いであつたが、猪俣は、昭和五八年初めころから、中徳機械と被告との間の取引を積極的に斡旋し、中徳機械が被告に手形割引を依頼するに当たり、原告では禁止されていたにもかかわらず、永尾の要請もあり、四、五回に亘つて、最高四〇〇〇万円の手形債務につき、約束手形期日決済を保証する旨記載した自己名義の保証書と題する書面を永尾宛に差し入れていた。

(三) 中徳機械の経営状況

中徳機械は、中山が昭和三三年六月個人経営の「中山徳商店」として創業したものを、翌昭和三四年六月法人成させた資本金一〇〇〇万円の機械工具の販売等を目的とする会社(代表取締役中山)であり、昭和五六年一〇月取引先の一億円強の焦付から資金繰りが悪化し、組合、原告ら金融機関の支援で何とか切り抜けてきたが、昭和五八年五月期の一年決算で四〇〇〇万円余の欠損を出し、さらに、同年六月一日から同年九月三〇日までの間に一億二六〇〇万円余の欠損を出していたところに、砂利採集プラントで取引があり支援手形も出していた中尾産業(中徳機械の債権額五億六、七〇〇〇万円余)が同年五月倒産し、関連企業で中徳機械とも取引のあつたスターフロック(前同約二億円)、達山工運株式会社(以下「達山工運」という。前同一億四〇〇〇万円)及びアロー工業株式会社(以下「アロー工業」という。前同一五五五万円余)も次々と連鎖倒産し、中徳機械は一気に九億円余の不良債権をかかえこむことになつた。そのため、原告も組合も新規貸付には更に消極的になり、当時の主な取引銀行である商工中金や第三相互銀行からの融資も全く期待できない状況にあつた。しかし、右状況下にありながら、被告は中徳機械に協力的であり、昭和五八年七月一一日、組合あびこ支店を介して交換呈示した中徳機械振出の額面四〇〇〇万円の手形も資金不足のため支払を拒絶されたが、被告は、右手形について依頼返却の手続をとりジャンプしたのをはじめ、その後も同年八月一二日、同月二〇日、同年九月八日及び同月一二日、同様の手形、額面合計五八〇〇万円につき、いずれも依頼返却ないし入金して実質的にこれをジャンプし結果的に中徳機械の資金援助をしていた。

(四) 本件根抵当権譲渡の経緯

(1) 中山としては、前記中尾産業関係の資金繰りについては、所有物件の処分で切り抜ける予定であつたが、昭和五八年九月六日の支払手形の決済資金二〇〇〇万円については資金繰りの目途が全く立たない状況に追い込まれた。そこで、中山は、同年八月末ころ、猪俣に対し、当座のある原告からの融資を依頼したが、猪俣は、原告としては業績のよくない中徳機械に対する融資枠を圧縮すべく努めていた時期でもあつたので、右申入を断わり、代わりに担保余力を残している組合に依頼するように勧めた。そこで、中山は、組合のあびこ支店長中西直幸(以下「中西」という。)に、右融資方を依頼したが、中西は、中山に対する債権の管理は管理部に移つており、新規融資は無理であるとして同様、右申入を断つた。

(2) 万策つきた中山は、同年九月初めころ、猪俣に相談したところ、猪俣は被告と交渉することを勧めたので、そのころ、中山は猪俣と共に被告方を訪れ、永尾に対し、「組合の本件根抵当権は極度額が一億三〇〇〇万円であるが、残債務は約八〇〇〇万円であるから、約五〇〇〇万円の担保余力があることになる。したがつて右根抵当権を譲渡すれば被告に迷惑をかけることはないので、右根抵当権の被告への譲渡を条件に被告から二〇〇〇万円を融資されたい。」旨依頼した。そして、その際、猪俣は、永尾に対し、中徳機械は、二〇〇〇万円の決済資金があれば大丈夫で、以後、原告も援助を続ける旨述べたので、永尾は右言を信じ、猪俣の保証が得られるならば右依頼に応ずる意向を示した。そこで、中山は、直ちに組合管理部に右交渉経過を説明してその承諾を求めたところ、組合もこれを承諾し、その後、本件根抵当権の譲渡につき手続が進められた。なお、猪俣も、同年九月二三日ころ、中西に対し、右譲渡関係の書類は整つたかと電話で問い合せる等右借り受けに積極的に協力した。

(3) 右譲渡手続を進めている間、中徳機械の支払手形の決済期日である同月六日になつてしまつたため、中山は、猪俣に対し、被告から金が出たらすぐ返すからと、二〇〇〇万円のつなぎ融資を依頼し、猪俣は再度中西に電話で本件根抵当権の譲渡につき確認したところ、二、三日中に譲渡できる旨の返答を得たので、被告からの前記二〇〇〇万円の融資があればすぐに決済できると考え、中山に対し短期つなぎ資金として同月九日の支払期日の手形で二〇〇〇万円を貸し渡した。これにより、中徳機械は、同月六日、支払手形の不渡りを免れた。

(4) 同月六、七日ころ、永尾、中山、組合間において、同月九日付をもつて、①中山の組合に対する残債務と同人の預金債権とを相殺処理し、その相殺後の残債務約八〇〇〇万円を中山が支払うこと、②右支払は、本件根抵当権を被告に譲渡し、その債務者を中徳機械に変更し、被担保債権の範囲も変更したうえ、同社が被告から金策してその資金をもつて充てること、③そのため、本件根抵当権を被告に譲渡することを合意した。

(5) 同月九日、被告が専属で利用している田中司法書士事務所において、永尾、中山、中西、猪俣らが集まり、根抵当権全部譲渡契約証書(乙第一号証)、根抵当権変更契約証書(乙第二号証)に調印した。そしてこれに基づき、被告は中徳機械に一億一〇〇〇万円を貸し付け、中徳機械は、うち八〇〇〇万円を組合に対する残債務の支払に充当し、一〇〇〇万円を中尾産業振出の手形を中徳機械が被告で割り引いていた手形債務一〇〇〇万円に充当し、残二〇〇〇万円は中山が永尾から組合振出の保証小切手で受領したので、右短期つなぎ資金の弁済としてその場で猪俣に渡した。これにより、中山は組合に対する債務を全て弁済した。

そして、前記合意に基づき、同月一〇日、本件根抵当権の譲渡並びに債務者及び被担保債権の範囲の各変更登記(別紙登記目録五ないし七記載)がいずれも経由された。

(五) 猪俣は、同月九日、額面二〇〇〇万円の右小切手を原告(玉造支店)に持ち帰つたが、当日は営業時間が終わつており、翌日は第二土曜日で銀行の休業日であつたので、三日後の同月一二日取立に出し取立完了後右短期つなぎ資金としての資金に振替充当するつもりで、一応その日は中徳機械の当座預金に入金した。

ところが、同月一二日、被告が中徳機械振出、支払期日右同日の額面一五〇〇万円の約束手形をジャンプせずに支払場所である原告玉造支店に交換呈示を求めてきた。猪俣としては、右一五〇〇万円の手形債務を個人で保証しており、もし小切手二〇〇〇万円を右短期つなぎ資金の弁済に充当すれば、右一五〇〇万円手形債務の決済ができず、そのためこれが不渡りとなり、その結果、自己の保証責任が表面化することを恐れ、中山に対し、右手形の依頼返却を受けるように求めた。そこで、中山は永尾にその旨交渉したが、結局これを拒絶されたので、猪俣は、中山に対し、さらに翌日まで待つから善処せよと言つて、同月一二日は「入金待」ということで右手形を決済するか否かについての処理を保留していたが、同月一三日になつても依頼返却されず、かつ、当座入金もなかつたので、猪俣は、中徳機械の不渡処分をどうしても回避したいため、やむなく右二〇〇〇万円の小切手金の入金をもつて右一五〇〇万円の手形を決済した。

なお、原告の短期つなぎ資金二〇〇〇万円については、原告においてその後、中徳機械の原告に対する預金債権との相殺処理によりこれを回収した。

(六) その後、中徳機械は、原告から約二、三〇〇〇万円の手形割引、差換えをするなどして原告と取引を継続していたが、再度、資金不足となり、同年一〇月六日、第一回手形不渡を、同月八日、第二回手形不渡を出して取引停止処分となり倒産した。

以上の事実を認めることができ、〈証拠判断略〉。

4  原告は、被告の本件根抵当権の譲受け等が、本件根抵当権の元本確定後になされたものであるので無効又は不存在である旨主張するので、以下、本件根抵当権の確定の有無について検討する。

(一)  原告は、後に個別に判断するとおり種々の事由を挙げて、右各事由がそれぞれ民法三九八条の二〇第一項一号中の「取引ノ終了其ノ他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本ノ生ゼザルコトト為リタルトキ」に該当し、本件根抵当権が被担保債権の元本確定により確定した旨主張する。

しかして、右条項にいう「取引ノ終了其ノ他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本ノ生ゼザルコトト為リタルトキ」とは、取引の可能性が絶無になるとか、根抵当権者と根抵当権設定者との間で確定の合意が成立したこと等によつて担保すべき元本が将来において発生しないことが客観的に明確になつたことをいうものと解すべきところ、その認定に当たつては相当に慎重でなければならない。けだし、本来当該根抵当権が取引によつて生ずる債権を担保するものであると同時に極度額という枠の支配権である以上、その確定にかかわる右の如き事由の有無は、本来、当該根抵当権の取引当事者たる根抵当権者と根抵当権設定者がこれを決すれば足りる問題だからである。

すなわち、後順位債権者は、先順位根抵当権者がその極度額までは優先権を有することを承知して利害関係をもつに至つたものであるから、根抵当権について極度額という権利の枠のみの自由譲渡を可とした民法の立法趣旨から推しても、後順位債権者に取引当事者とは異なる主張をさせることは妥当ではない。

また、実際的に考えても、金融取引においては、債権者としては、取引の相手方の信用状態を総合的に判断して、更に貸付けを行なうか打ち切るかについて、一旦貸付取引は中止して様子をみてからどうするか決しようという局面がままあるであろうとみられ、しかも、こうした点について、取引の相手方の要請に対して、不得要領的な態度に出て、権利保全を図る債権者の存在は往々みられるところであるから、仮に長期にわたつて根抵当権の被担保債権となりうる債権の発生がない状態が継続したとしても、そのことをもつて直ちに取引の終了等と認めることは取引の実情にそぐわないものというべきである。

以下こうした立場から、順次原告主張の確定事由について検討する。

(二) 請求原因1(三)(1)の事実について判断するに、原告は、中山が昭和五七年初め組合の組合員資格を喪失したので、その時点で本件根抵当権は確定した旨主張する。なるほど、証人中山の証言によれば、少なくとも原告主張の右の時点までに、同人が原告主張の吹田市の住所に移転したことが認められ、組合の営業区域が原告主張のとおりであることは、弁論の全趣旨により明らかである。

しかし、〈証拠〉を総合すれば、中山は、組合と、昭和五四年四月五日、信用組合取引を開始したこと、同人は、昭和五三年ころから同五六年ころまで大阪市平野区内でうどん屋を経営していたこと、また、同人は、中徳機械及びムツワ資材株式会社(以下「ムツワ資材」という。)のいずれも代表者であること、中徳機械は、機械工具の販売等を業とし、本店は大阪府枚方市内にあるが、大阪市内にも支店及び営業所を有していること、及び、ムツワ資材は、建築資材の販売等を業とし、本店は、昭和五六年五月より、大阪市南区に移転されていること、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、中山は、昭和五六年末までには大阪市平野区内で経営していたうどん屋をやめてはいるものの、その後も、大阪市内に本店を有するムツワ資材及び大阪市内に支店及び営業所を有する中徳機械の経営をいずれも継続しているのであるから、中山が昭和五六年末をもつて組合員資格を喪失し組合を法定脱退したものとは認められない(原告主張のように中小企業協同組合法八条四項を限定的に解釈する必要はない。)。よつて、原告の右主張は理由がなく採用することができない。

(三)  次に、請求原因1(三)(2)の事実につき判断するに、原告は、昭和五八年八月下旬の時点で、債権者たる組合のもう新規融資はしない、債務者たる中山のもう新規融資申出はしないという意思が明示されていたのであるから、その時点で本件根抵当権の被担保債権の元本は確定した旨主張するが、前記認定事実によれば、中山は、組合から昭和五四年、五五年に合計一億〇五〇〇万円も借り受けながら昭和五六年七月以降元金の支払はなく利息も延滞していたこと、組合は中山からの回収がはかどらないため昭和五八年三月三一日中山に対する債権の管理を本店管理部に移したこと、中山及び中徳機械が昭和五八年八月ころには取引先が次々と倒産したためその経営は非常に苦しい状況にあつたこと及び中山は昭和五八年九月六日の支払手形の決済に必要な二〇〇〇万円の融資を組合から得ようと中西に申し入れたが同年八月下旬ころ拒絶されたことは認められるものの、単なる支払遅滞が根抵当権の確定事由の一つである「取引ノ終了」(民法三九八条の二〇第一項一号)にあたらないことはもちろん、組合の管理部に移管されたとはいつても、〈証拠〉によれば、移管後も取引先が再起してさらに貸付を行うことも少なからずありうるのであり、組合としては、中山に対する債権を不良債権とは考えていなかつたというのであるから、右当事者の意思からみても、「取引ノ終了」にあたるということはできないし、また、中山及び中徳機械の経営状態が悪いとはいつても、前記認定事実によれば、同人らには処分可能な物件があり、未だ担保的余力は残つていたものと認められるから、取引継続の客観的可能性も潜在していたものであり、この点からみても、「取引ノ終了」にはあたらないものというべきである。よつて、昭和五八年八月下旬に本件根抵当権の被担保債権の元本が確定したとの原告の主張は採用することができない。

(四)  次に、請求原因1(三)(3)の事実につき判断する。

原告の右主張は、趣旨判然としない部分を残すが、その全趣旨によれば、結局は昭和五八年九月九日の二、三日前ないし遅くとも同日組合と中山間の信用組合取引契約が合意解除されて本件根抵当権の被担保債権の元本が確定した、その後本件根抵当権の被告への譲渡等・その登記がなされたというように、本件で組合と中山間の残債務八六〇四万円の決済処理に関する合意と本件根抵当権譲渡をあくまでも分離して考えているものと思われる。

そして、仮に一般論として本件根抵当権譲渡を全く度外視して、つまり本件根抵当権譲渡が前提ではなく、根抵当権者たる組合と根抵当権設定者たる中山間に明示的に基本となる継続的取引契約(信用組合取引契約)を合意解除したとすれば、民法三九八条ノ二〇第一項一号中の「取引ノ終了」とみることができるであろう。そうとすれば、右のように取引当事者間で基本となる継続的取引契約を合意解除するとなれば、必然的に根抵当権の確定を生じるのであるから、その場合取引当事者間に根抵当権の被担保債権を確定せしめる旨の合意があるはずであり、その原因関係と目すべきものがあるはずである。しかし、本件では全証拠によるも、右合意を認めるに足る証拠はなく、本件根抵当権の譲渡を離れて、右原因関係と目すべきものを認めるに足りる証拠はない。したがつて、組合と中山間には前述した意味での「合意解除」は存在しなかつたといわざるを得ない。

むしろ、前記3に認定の事実からすれば、原告主張の合意について、本件では組合と中山間でも本件根抵当権譲渡と両者間の残債務の決済処理は不可分一体のものとして認識されていたものとみられ、あくまでも未確定のままでの本件根抵当権譲渡が本体をなすものと認識されていたものとみられる。

しかして右根抵当権譲渡は、特にこれが詐害の意思を持つてなされた等の不当性がない限りは許された経済取引活動の範囲内の行為であるというべきである。けだし債務者が先順位の根抵当権者から未だ右根抵当権の担保余力があるのに新規融資を拒絶された場合、必ず右根抵当権者と旧来の取引契約を合意解除して取引終了を理由に被担保債権の元本を確定させたうえ、原告指摘のように確定後の代位弁済・債権譲渡等を理由に新融資者に右根抵当権を取得させようと要求するのは債務者の金融獲得の手段を奪うことになつて酷であるし、民法も未確定の根抵当権の譲渡を否定しているものでないことはいうまでもないからである。

このように考えてくると、本件で原告が組合の根抵当権の極度額一億三〇〇〇万円と実際の被担保債権額の差額の担保余力を期待して行動したことも理解できないではないが、前示のとおり、本来、後順位債権者たる原告は、先順位根抵当権者たる組合の極度額までは組合と限らずその根抵当権譲受人が優先権を有することを前提に利害関係をもつべきものであるから、たとえ根抵当権の譲渡が債務者が倒産状態ないしそれに近い状態に陥つた時点でなされ、譲受人が譲受以前に有していた債権をもその被担保債権に含ましめたとしても、そのことだけで、直ちにこれが詐害性を有し信義則上許されないとはいえない(むしろ、本件根抵当権の譲渡については、原告の被用者である猪俣が深くこれに関与し、しかも右猪俣の行動は支店長の職責を著しく逸脱するものであるから、右譲渡の不当性を主張する原告の主張には限界があるというべきである)。

よつて、遅くとも昭和五八年九月九日、本件根抵当権の被担保債権の元本が確定したとの原告の主張は採用することができない。

5  以上の次第で、原告の主張はいずれも理由がなく、しかして、前記3の各認定事実によれば、本件物件等に対する根抵当権の譲受け並びに債務者及び被担保債権の範囲の各変更はいずれも本件根抵当権の元本確定前になされたものであり、有効というべきであるから、これを原因として本件物件等につきなされた本件根抵当権設定登記の抹消を求める原告の主位的請求は理由がない。なお、付言するに、仮に、原告主張の如く、本件根抵当権の譲受け等が無効、不存在であるとしても、前記認定事実によれば、昭和五八年九月九日の時点で、組合は中山に対して約八六〇〇万円の確定元本債権を有しているのであるから、本件物件等につきなされた本件根抵当権設定登記は右元本債権を担保する限度で有効であり、したがつて、被告に対し、前記各付記登記のみの抹消を求めるは格別、右登記全部の抹消を求める原告の主位的請求は、右の点においても理由がないというべきである。

二予備的請求について

1 原告は、中山の本件根抵当権譲渡並びに債務者の変更及び被担保債権の範囲の変更に関しての本件承諾が詐害行為となる旨主張する。

しかしながら、民法四二四条の詐害行為取消権は総債権者の共同担保の保全を目的とする制度であるところ、本件物件等のように根抵当権の設定されている不動産については目的物の価格から右根抵当権の極度額を控除した残額のみが共同担保となつているのであり、その部分の資産減少行為だけが、詐害行為となるのであり、後順位の担保権者及び一般債権者は右極度額の範囲で先順位の根抵当権者に優先権を主張されることは当然予測すべきことであつて、右後順位担保権者らは、先順位根抵当権についての譲渡の債務者の承諾に容喙する理由はないから、本件承諾は、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。

2  したがつて、本件承諾により、原告らの有する債権の引き当てとなるべき中山の一般財産には、本件根抵当権の譲渡の前後で何らの変動もないものであるから、原告の詐害行為取消の主張はその余の点について検討するまでもなく、主張自体失当である。

よつて、原告の予備的請求もまた理由がない。

第二第二事件関係

一請求原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

二請求原因4(一)の異議については、前記第一の一3の認定事実によれば、請求原因4(一)の各契約が適法に成立したものと認められるから、右限度で原告の異議は理由がない。

三請求原因4(二)の異議については、〈証拠〉によれば、被告の主張2の事実が認められるから、原告の異議は右限度で理由がない。

四請求原因4(三)の異議については、前記第一の一、二の各判示のとおりいずれも理由がない。

五そうすると、原告の本件配当異議訴訟は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第三第三事件関係

一以上認定、説示のとおり原告の第一事件、第二事件の各請求はいずれも理由がなく原告は敗訴を免れないのであるが、被告は原告が右各訴えを提起したこと、とりわけ第二事件を提起したことを把え、不当訴訟であり不法行為を構成すると主張する。

二一般に、訴えが不法行為の要件を具備しているというためには、それが目的その他諸般の事情からみて著しく反社会的、反倫理的なものと評価され、公の秩序善良の風俗に反していると認められる場合、すなわち訴えがそれ自体として違法性を帯びている場合でなければならないと解すべきである。したがつて、単に訴訟の結果訴訟物たる権利がなかつたのに、これあるものとして訴えを提起したというだけで、この要件を具備したというには十分でなく、権利のないことを知りながら被告を害するため、またはその他紛争の解決以外の目的のため、あえて訴えの手段に出たという故意が認められる場合か、権利の存否について深く調査もせず、訴訟という手段に出る際の原告の態度としては誰が見ても軽率に過ぎ、世間の常識上著しく非難されるに値する程の重大な過失によつて権利のないことを知らずに訴えを提起したというような場合でなければならないと解するのが相当である。

三そこで、以下、原告の責任について検討する。

1  まず、被告は、第二事件の訴え提起により結果として生じた八六〇〇万円の配当金の支払留保という点を把え、原告は、配当留保により被告の被る損害を当然予測できたのであるから、無過失責任を負うべきであると主張するが、任意競売における配当異議訴訟の判決は抵当権の存否及びその順位等の実体的法律関係を確定するものではなく(最高裁判所昭和四三年六月二七日判決民集二二巻六号一四一五頁参照)、後の不当利得返還請求の可否を当然に規律するものとはみられないし、配当異議訴訟の場合に限つて無過失責任を肯定すべき法律上の根拠はないから、被告の右主張は失当である。

2 また、被告は、仮執行宣言の失効の場合について定める民訴法一九八条二項に準じて無過失責任と解すべきと主張するが、同項に基づく責任は、仮執行を実効あらしめるための不法行為責任というよりむしろ適法行為に基づく法定の特別責任とみるべきであつて、同項を不法行為に基づく損害賠償責任に準用する余地はないから、被告の右主張は採用できない。

3 さらに、被告は、配当異議訴訟による配当金の支払留保はいわば仮処分によつて支払を停止するのと同じ効力を有するというべきであるから、第二事件における原告の請求が理由がなく敗訴判決がなされれば、原告の過失が推定されると主張する。

なるほど、一般に、仮処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、右申請人において過失があつたものと推定されるのが相当であると解されている(最高裁判所昭和四三年一二月二四日判決民集二二巻一三号三四二八頁参照)。

しかしながら、このように保全処分申請事件で本案訴訟において原告敗訴の判決が確定した場合には右保全処分は違法なそれであつたと推定されるのは暫定性、緊急性といつた保全処分手続の特質に由来するものとみられ、これと手続構造を異にする配当異議事件について右の理を適用するに由なく、しかも本件で第一、第二事件は併合審理されているのであるから原告の過失を推定する余地はいずれにしてもなく、被告の右主張も採用できない。

4  そこで、原告の故意又は過失の存否についてみるに、原告は、本件第一事件、第二事件がいずれも根拠薄弱である旨主張するが、前記認定のとおり、右各事件においては、根抵当権の元本確定に関する事実認定及び法律問題が最重要争点とされており、右事実認定に当たつては、詳細且つ微妙な認定が要求され、法律問題に当たつては、判例、学説上の論点を含み、解釈の余地のある分野であるから、原告が自己の利益を計るため、右事実認定及び法律問題につき自己に有利に解釈して右各訴訟を提起したとしても、これをもつて直ちに原告の右訴え提起が不当であるということはできない。もつとも、前記認定事実によれば、原告は自己の被用者である猪俣の行為に対する法的評価を不問に付して、敢えて被告の行為の無効等を主張し、自己の利益のみを確保しようとしている点においてやゝ軽率のそしりを免れないが、前記事情も総合考察すれば、これをもつて過失があるものとまでは認め難い。また、原告が右訴訟係属中に本件不動産につき配当期日が到来したので異議を申し立てたことは本件記録及び弁論の全趣旨に徴し明らかであるが、右異議についても、前同様の理由により原告の権利の防衛手段として不当視すべきではない。

その他、本件全証拠によつても、原告に右二項で判示した意味での故意又は重大な過失があつたことを認めるに足りる証拠はない。

四よつて、その余の事実について判断するまでもなく、被告の本件損害賠償請求は理由がない。

第四結論

してみれば、原告の第一、第二事件、被告の第三事件の各請求はいずれも理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官久末洋三 裁判官小澤一郎 裁判官三井陽子)

別紙登記目録

一 別紙物件目録一ないし六記載の物件につき大阪法務局吹田出張所昭和五五年七月五日受付第二七三一五号根抵当権設定登記

原   因 昭和五五年六月三〇日設定

極 度 額 金一億三〇〇〇万円

債権の範囲

信用組合取引・手形債権・小切手債権

債 務 者 中山徳重

根抵当権者 大和信用組合

二 別紙物件目録一ないし三記載の物件につき同出張所昭和五五年八月一五日受付第三一二八五号根抵当権設定登記

原   因 昭和五五年八月九日設定

極 度 額 金三六〇〇万円

債権の範囲

相互銀行取引・手形債権・小切手債権

債 務 者 中山徳重

根抵当権者 原告

三 別紙物件目録一ないし三記載の物件につき同出張所昭和五七年二月一七日受付第三六九一号二の根抵当権変更登記

原   因 昭和五六年二月二日変更

債 務 者 中徳機械器具株式会社

四 別紙物件目録一ないし六記載の物件につき同出張所昭和五六年二月一八日受付第四五一八号根抵当権設定登記

原   因 昭和五六年二月二日設定

極 度 額 金五〇〇〇万円

債権の範囲

相互銀行取引・手形債権・小切手債権

債 務 者 中徳機械器具株式会社

根抵当権者 原告

五 別紙物件目録一ないし六記載の物件につき同出張所昭和五八年九月一〇日受付第二六九四九号一の根抵当権移転付記登記

原   因 昭和五八年九月九日譲渡

根抵当権者 被告

六 別紙物件目録一ないし六記載の物件につき同出張所昭和五八年九月一〇日受付第二六九五一号一の根抵当権変更付記登記

原   因 昭和五八年九月九日変更

債 務 者 中徳機械器具株式会社

七 別紙物件目録一ないし六記載の物件につき同所張所昭和五八年九月一〇日受付第二六九五二号一の根抵当権変更付記登記

原   因 昭和五八年九月九日変更

債権の範囲

金銭消費貸借取引・手形貸付取引・手形債権・小切手債権

別紙物件目録

一 吹田市千里丘西三五四番二

山林 四六七平方メートル

二 同所同番3

山林 四六七平方メートル

三 同所同番4

山林 七六〇平方メートル

四 同所同番1

山林 二五七平方メートル

五 同所二一九〇番一三

宅地 三二九・七五平方メートル

六 同所同番の一三

家屋番号 八六三番

木造瓦葺平屋建居宅

床面積 八三・三三平方メートル

別紙割引手形・損害金明細〈省略〉

配当表〈省略〉

支払額一覧表〈省略〉

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